リスクアセスメント語句説明

 

①労働安全衛生法(安衛法)

労働災害の防止のために、危害防止基準の確立、責任体制の明確化及び自主的活動の促進の措置を講ずるなどの総合的かつ計画的な対策を推進することにより、労働者の安全と健康を確保し、快適な職場環境の形成を促進することを目的として制定された法律。

 

②安全データシート(SDS)

化学品の安全な取り扱いを確保するために、化学品の危険有害性等に関する情報を記載した文書。化学品の危険有害性や適切な取り扱い方法に関する情報等を、供給者側から受け取り側の事業者に伝達する。SDSに記載する情報には、化学製品中に含まれる化学物質の名称や物理化学的性質のほか、危険性、有害性、ばく露した際の応急措置、取扱方法、保管方法、廃棄方法などが記載される。

③リスクアセスメント(RA)

事業場にある危険性や有害性の特定、リスクの見積り、優先度の設定、リスク低減措置の決定の一連の手順をいう。
事業者は、危険性又は有害性等の調査及びその結果に基づいて適切な労働災害防止対策を講ずるよう努めなければならない。

 

④日本産業衛生学会

産業衛生に関する学術振興や労働者の職業起因性疾患の予防及び健康維持増進によって学術と社会の発展に寄与することを目的に1929年に設立された公益社団法人。産業衛生に関する学術集会・講演会等の開催、学会誌・学術図書の刊行、産業衛生に係わる各種基準の勧告等の事業を行なっている。

 

⑤米国産業衛生専門家会議(ACGIH)

米国の産業衛生の専門家の組織で産業保健分野を扱っている。毎年、化学物質や物理的作用及びバイオモニタリングについての職業上の許容濃度の勧告値や化学物質の発がん性の分類を公表しており、世界的にも重要視されている。

 

⑥有機溶剤中毒予防規則(有機則)

工場や作業現場における有機溶剤使用時の中毒を防止するためのもので、有機溶剤の安全基準を定めた省令。労働安全衛生法に基づき、厚生労働省の管轄で定められている。有機溶剤は労働安全衛生方施行令『別表第六の二』に掲げられており、毒性の強い順に第一種、第二種、第三種と三段階に分けられている。作業主任者の選任、有機溶剤蒸気の発散源対策、作業環境管理、掲示と保管、健康管理に関する内容が義務付けられている。

 

⑦特定化学物質障害予防規則(特化則)

労働者が化学物質による健康障害を受けることを予防する目的で労働安全衛生法のもとに制定された省令。

特定化学物質とは健康障害を発生させる(可能性が高い)物質として定められたものであり、大別すると微量のばく露でがん等の慢性・遅発性障害を引き起こす物質(第1類物質、第2類物質)と、大量漏洩により急性障害を引き起こす物質(第3類物質)とがある。

発散抑制装置、作業主任者の選任、漏洩防止のための措置等、作業環境測定、健康診断等が義務付けられている。

 

⑧特別規則(例示)

有機溶剤中毒予防規則、特定化学物質障害予防規則、四アルキル鉛中毒予防規則及び鉛中毒予防規則の四則を指す。特別規則に基づく管理として、“密閉、局所排気装置等の発散抑制装置、作業環境測定、特殊健康診断等、ラベル表示/SDSの交付/各種掲示/保護具の使用等が求められる。

 

⑨変異原性

生物の遺伝情報(DNAあるいは染色体)に変化をひき起こす作用を有する物質または物理的作用(放射線など)をいう。GHS(後述15)参照)の定義では、「変異原性物質(Mutagen)とは、細胞の集団または生物体に突然変異を発生する頻度を増大させる物質」であり、「突然変異(Mutation)とは、細胞内の遺伝物質の量または構造における恒久的な変化」である。

⑩エームズ試験

細菌を用いて催突然変異性を検出する試験です。突然変異とはなんらかの影響(化学物質、紫外線、環境など)によりDNA が傷つくことによってDNA 上の遺伝子配列が変わり本来生成されるべきアミノ酸が生成されずに元の形質を再現できないことを意味します。細菌は生育するのに必要なアミノ酸を自身で合成していますが本試験に使用する菌株は遺伝子操作によってある一部のアミノ酸の合成ができないように改良されています。この菌株に化学物質などを加えることによって突然変異が生じ、元の野生株と同じように自身でアミノ酸が合成できるようになった結果、最少グルコース寒天培地(テスメディアAN培地、クリメディアAM-N 培地)上で増殖して形成されるコロニー(菌体の集合したもの)の数をカウントします。すなわちアミノ酸合成ができないように改良した菌が突然変異により菌が本来有しているアミノ酸合成ができるように復帰するという意味から復帰突然変異試験と名付けられています。ちなみにAmes 試験とはこの試験を開発した米国カルフォルニア大学のAmes 教授に由来するものです。

 

⑪PCB [polychlorinated biphenyl]

ベンゼン環が2つつながったビフェニル骨格の水素が2 個以上の塩素で置換されたもの。一般式 C12H10-nCln 。置換塩素の数と位置によって計算上209種の異性体が存在。市販PCB製品はPCB異性体の混合物。化学的に安定で絶縁性にすぐれ,絶縁油・熱媒体・可塑剤などに広く用いたが、毒性および化学的安定性による人体蓄積・廃棄処理難のため、日本では 1972 年(昭和 47)から製造・使用禁止になっている。

⑫ECETOC-TRA [ECETOC-Target Risk Assessment]

欧州化学物質生態毒性・毒性センター[ECETOC]がリリースしている目標を絞ったリスク評価[Target Risk Assessment]の手法の略称。

欧州におけるREACH規則に対応するためのスクリーニング評価を目標として、化学物質のばく露量とリスクの程度を定量化するために開発した数理モデル。このモデルの特徴は、(1)「労働者」「消費者」「環境」という全てのばく露対象について、1つのモデルで評価が可能であること、(2)評価に必要な情報の量が多くないこと、(3)多くの人が使い慣れたExcel形式であること、(4)「カテゴリー」という記述子を用いてばく露の状況を決める複数の情報に関する設定を行えること 等がある。

ECETOC-TRAのHP [http://www.ecetoc.org/tra]より無償で入手可能。

⑬REACH [Registration, Evaluation, Authorization of Chemicals]

Registration(登録)、 Evaluation(評価)、Authorization(承認) of Chemicals(化学物質)を略して、「リーチ」と読む。

EU(欧州連合)における化学物質の総合的な登録、評価、認可、制限の制度。2007年6月1日に発効した。EU域内にて化学品を製造、輸入する場合、ECHA(欧州化学品庁)への物質の登録、評価を製造業者、輸入業者に対して義務づけ、さらに発がん性を有するなど健康・環境に影響を与える懸念がある物質(高懸念物質:SVHC)については認可、禁止などの制限をもうけた制度。

⑭中央労働災害防止協会(中災防、JISHA)

労働災害防止団体法に基づき、1964年(昭和39年)に設立された団体。厚生労働省所管の認可法人であったが、2000年(平成12年)6月19日に特別民間法人となった。事業主の自主的な労働災害防止活動を促進し、働く人々の安全と健康を確保するための総合的な活動を行っている。略は中災防。

⑮GHS分類区分

GHS(The Globally Harmonized System of Classification and Labelling of Chemicals:化学品の分類および表示に関する世界調和システム)は、化学物質の危険有害性の分類及びラベル、SDS(Safety Data Sheet:化学物質等安全データシート)による情報伝達に関する国際的に調和されたシステム。国際連合(国連)GHS小委員会において検討され、2002年に国連GHS文書として策定し、2003年7月に国連勧告として発行された。

危険有害性の分類を国際的に整合性を持たせるためにGHSでは分類基準を定めている。化学品の危険有害性をその一定の基準に従って分類し、絵表示等を用いて分かりやすく表示し、その結果をラベルやSDSに反映させ、災害防止及び人の健康や環境の保護に役立てている。

GHSの規定が適応される物質は「物理化学的危険性」、「健康有害性」、「環境有害性」の各「分類」の基準に該当するものである。

該当する分類項目があり、その有害・危険性の測定値がしきい値以下のものは「区分外」。「区分内」と「区分外」の他に、GHSの「分類」定義に該当するものがないものは「分類対象外」、情報・データ不足のため分類出来ないものは「分類出来ない」と表現される。

「区分」とは各「分類」項目における、有害・危険性の強弱、または、分類の元になった情報の信頼性の強さによる仕分けで強いほうから「区分1」、「区分2」、「区分3」、、、と表示される。有害・危険性の強弱で分類するか情報の信頼性で分類するかは危険有害性クラスが何であるかによって違う。

関係各省が実施したGHS分類結果はNITE(独立行政法人製品評価技術基盤機構)のHP等で公表されている。